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東京地方裁判所 昭和31年(レ)290号 判決 1957年12月19日

控訴人 社団法人都民住宅会

被控訴人 清水隆 外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人代表者は「原判決を取り消す。被控訴人らは控訴人に対して、東京都墨田区錦糸町四丁目十八番地の二所在家屋番号同町十八番六木造セメント瓦葺平家四戸建一棟建坪二十八坪五合の内向つて右の角一戸建坪七坪二合五勺(以下本件建物という)を明け渡し、且つ昭和二十七年四月一日より明渡済に至るまで一箇月金七百円の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは本件控訴を棄却するとの判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、被控訴人らにおいて次のように述べたほか、原判決の事実摘示と同一である。

一、控訴人主張の催告並びに条件附契約解除の意思表示の内容証明郵便が被控訴人らに昭和三十年十二月二十一日到達した事実は認める。

二、本件建物の賃貸人は訴外言問貸家組合であつて控訴人ではなく又控訴人は右訴外組合の地位を承継したものでもないから、従つて本件建物の賃貸借契約の解除権を行使し得べき地位にはない。

仮りに控訴人が右訴外組合の賃貸人たる地位を承継したものであつても、本件建物につき控訴人名義に所有権保存の登記をした昭和二十七年六月十七日以降でなければ第三者たる被控訴人らに対しては賃貸人であることを主張することができず、右訴外組合がそれ以前に被控訴人らに対して有していた延滞賃料債権までも当然に承継されるものではないから、右賃料債権の譲渡を受けない控訴人は、昭和二十七年四月一日から同年六月十六日までの賃料は被控訴人らに対して請求することができない。

本件建物は昭和二十二年一月に住宅として建てられたものであり、その賃料については地代家賃統制令の適用がある。

然るに昭和二十七年三月頃控訴人又は訴外糟元一合資会社名義で被控訴人らに対して賃料統制額を超えた約定賃料の倍額の支払又は不法占有による建物明渡を請求してきたこともあり、控訴人が約定賃料を受領する様子がないので本件建物の統制賃料額を算出して、催告期間内に弁済のため供託をしたものである。なお本件建物の敷地はもと軍用地であり訴外言問貸家組合が昭和二十一年十月十四日東京都建設局より昭和二十一年度住宅建設計画による住宅敷地として無償で一時使用を許可され、本件建物は訴外東京都貸家組合が昭和二十一年度庶民住宅建設国庫補助金の交付をうけ昭和二十二年一月建築完成し、同組合の解散により訴外言問貸家組合が所有権を取得したものである。

立証として、

控訴人代表者は、甲第一号証の一ないし三、同第二ないし第七号証、同第八、九号証の各一ないし四、同第十号証の一、二、同第十一号証、同第十二号証の一ないし三、五、六、同第十三ないし第十五号証、同第十六号証の一ないし四、同第十七ないし第二十三号証を提出(甲第二十二号証は写をもつて提出)し、原審における証人伊藤政蔵および当審における証人岡田多平治の各証言ならびに当審における控訴人代表者糟谷磯平および被控訴人清水幸子の各本人尋問の結果を援用し、乙第五号証の成立は否認する、乙第十ないし第十二号証の原本の存在および成立ならびに乙第二号証の二ないし四のうち公証部分を除くその余の部分、乙第四号証のうち内容証明部分を除くその余の部分の各成立は知らない、乙第二号証の二ないし四のうち公証部分、乙第四号証のうち内容証明部分およびその余の乙号各証の成立は認める、乙第六、八号証を利益に援用すると述べ、

被控訴人らは、乙第一号証の一ないし三、同第二号証の一ないし四、同第三号証の一ないし三、同第四ないし第七号証、同第九ないし第十二号証を提出(乙第十ないし第十二号証は写をもつて提出)し、甲第四号証、同第九号証の一ないし四、同第十号証の一、二、同第十七、十八号証、同第二十、二十一号証の成立は知らない、同第七号証中谷岡幸子の署名および名下の印影を除くその余の部分の成立は否認する、同号証中谷岡幸子の署名および名下の印影ならびにその余の甲号各証(ただし甲第十三ないし十五号証を除く)の成立(甲第二十二号証については原本の存在並に成立)は認めると述べ、被控訴人清水隆において乙第八号証を提出し、甲第十三、十四号証の成立は知らない、同第十五号証の成立を認めて利益に援用すると述べた。

理由

一、まず、控訴人住宅会は控訴人住宅会が本件建物を建築したのであつて、はじめからその所有権者である。そして昭和二十二年五月六日に被控訴人清水幸子に賃貸し、その後引き続き被控訴人らに賃貸、使用させていたと主張し、被控訴人らは本件建物を訴外言問貸家組合から賃借したのである旨主張するので判断する。

(一)  本件建物の所有者について。

成立に争のない甲第五、十一、十五号証および第十六号証の一ないし四、その方式および趣旨により真正に成立した公文書と認める甲第十三および二十号証、当審における証人岡田多平治の証言ならびに控訴人住宅会代表者糟谷磯平の本人尋問の結果を総合すれば、本件建物は、もと軍用地であつた東京都墨田区錦糸町四丁目十八番地の二の土地上に四戸建一棟として四棟建てられた戦災用住宅の一戸であつて、建築用木材は訴外福寿共益合資会社から買い受け(同会社は後になつて当時統制されていた木材の配給切符を控訴人住宅会からうけとつた。)、建築資金については当時いまだ控訴人住宅会発起人において出資金の払込がなされていなかつたため糟谷磯平が発起人として控訴人住宅会に代つて資金全額千二百万円を立て替え調達して昭和二十一年十一月頃建築工事に着手し、翌昭和二十二年二月にはできあがつていたことを認めることができる。他に右認定を左右するに足りる十分な証拠はない。右事実から判断すれば、本件建物は控訴人住宅会が建築し、その所有者であるということができる。

被控訴人らは、本件建物の敷地は訴外言問貸家組合が一時使用の許可をうけ、訴外東京都貸家組合において本件建物を建築し、後、同組合の解散によつて言問貸家組合がその所有権を取得したのである旨主張する。

なるほど、成立に争のない乙第九号証、その方式および趣旨により真正に成立した公文書と認める乙第十、十二号証によれば、東京都言問貸家組合が本件建物の敷地をも含めた東京都墨田区錦糸四丁目十八番地宅地五百二十一坪の国有地(もと本所憲兵隊敷地)を、その管理にあたつていた東京都から使用の許可をうけ、東京都貸家組合連合会が昭和二十一年十月三十日当時の戦災復興院から住宅建設費国庫補助をうけて本件建物を建築したように認められないでもないが、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第十八号証の記載内容によれば、昭和二十一年十月二十四日に言問貸家組合が前記土地五百二十一坪の使用許可をうけたが、翌昭和二十二年七月十九日(成立に争のない乙第七号証によれば控訴人住宅会設立許可の日と一致する。)に、右土地の使用者を控訴人住宅会に変更することの許可を東京都知事に対し、言問貸家組合と控訴人住宅会とが連名で申請していること、その方式および趣旨により真正に成立した公文書と認める甲第二十号証によれば、同年十二月四日に東京都建設局住宅課長から控訴人住宅会に対し分譲住宅建設用木材の未渡分を支給する旨の通知がなされていることが認められ、右事実に前顕各証拠を併せ考えれば、本件建物の所有者はなお控訴人住宅会であるといわざるを得ない。

控訴人代表者糟谷磯平は当審において、控訴人住宅会が設立許可をうける前に東京都から本件建物の敷地についての許可をうけた旨および、乙第九号証は東京都の建設局長が貸家組合名義では使用申込ができないのに誤つて発したものである旨述べるが、甲第十八号証の記載内容に照らし措信することができない。

なお、成立に争のない甲第十六号証の四(家屋台帳謄本)の摘要らんには「昭和二十三年四月一日建築」との記載があるが、右記載は、本件建物が前記のように昭和二十二年二月にはできあがつたとの認定を妨げるものとはならない。

(二)  本件建物の賃貸人について。

成立に争のない甲第三号証、当審における被控訴人清水幸子の本人尋問の結果によれば、被控訴人清水幸子(当時谷岡幸子)は母谷岡暉子の名義で借家申込書を提出しているが、同号証によると宛名は言問貸家組合貸家斡旋所となつているところ、当審における証人岡田多平治の証言および控訴人住宅会代表者糟谷磯平の尋問の結果によると、昭和十九年十一月一日から全国的に貸家については家屋所有者が勝手に貸すことができず貸家組合を通じて貸すことになつたこと、それも貸家組合が貸主となるのではなくて、そのあつせんをするだけであることが認められ、これに反する証拠はない。そして右事実と前段(一)に認定の諸事実とを総合してみれば、結局、本件建物の被控訴人らに対する賃貸人は控訴人住宅会であると認めざるを得ない。

二、次に、控訴人住宅会が被控訴人らに対し、昭和三十年十二月二十一日到達の書面で、「昭和二十七年四月分から昭和三十年十一月分までの本件建物の賃料一箇月金七百円の割合による合計金三万八百円を五日内に支払わなければ賃貸借契約を解除する」旨の催告ならびに条件附契約解除の意思表示をしたことは当事者間に争がなく、被控訴人らは、右催告に対し被控訴人らとしては当時の事情から真の賃貸人が何人であるかを確認することができなかつたので、右請求にかかる賃料を供託したのであると主張し、控訴人住宅会は、右供託の効果を争うので判断する。

(一)  公証部分についてはその成立に争がなく、したがつてこれと一体をなす他の部分も真正に成立したものと認める乙第二号証の二ないし四によれば、被控訴人清水隆において、前記書面到達の日から五日以内である昭和三十年十二月二十四日に控訴人住宅会を受領者として昭和二十七年四、五月分および昭和二十九年五月分から昭和三十年十一月分までの賃料一万千百九十六円を東京法務局に供託したこと、これよりさき、昭和二十七年六月分から昭和二十八年十一月分までの賃料は昭和二十八年十一月二十四日に、昭和二十八年十二月分から昭和二十九年四月分までの賃料は昭和二十九年五月三十一日それぞれ控訴人住宅会を受領者として東京法務局に供託したことが認められる。

そこで、右供託が有効であるかどうかは、被控訴人らが本件建物の賃貸人は誰であるかを確知することができなかつたことについて過失がなかつたかどうかに帰する。

(イ)  そこで、成立に争のない乙第一号証の一ないし三(いずれも賃料領収書)、同第三号証の一ないし三、甲第十一号証、同第十六号証の四、内容証明部分につきその成立に争がなく、したがつてこれと一体をなすその余の部分についても真正に成立したものと認める乙第四号証および当審における控訴人住宅会代表者糟谷磯平の尋問の結果(たゞし後記の点を除く)を総合すれば、次のような事実を認めることができる。

本件建物の賃料につき昭和二十二年十月分から昭和二十四年九月分までは訴外福寿共益合資会社が、同年十月分から昭和二十六年九月分までは訴外言問貸家組合が、また、同年十二月分から昭和二十七年二月分までは控訴人住宅会がそれぞれ受領していること、昭和二十七年四月七日付で、被控訴人清水隆に対し糟元一合資会社から、「不法占有による建物明渡請求」と題する書面で、本件建物が糟元一合資会社の所有であるが同会社と被控訴人清水隆との間には何らの契約がなく、不法占有をしているから五日以内に明け渡すようとの趣旨の事項を記載した内容証明郵便が出されていること、同年五月九日には控訴人住宅会を債権者として被控訴人清水隆訴外染谷キクノ、村山一馬、児島利和、久保田みさをらを債務者とし、被控訴人清水隆については本件建物に対する同人の占有を解き執行吏の保管にうつす旨の仮処分がなされたこと、そこで同年六月十日差出の内容証明郵便でもつて「錦四居住者組合(原審における証人伊藤政蔵の証言によれば、本件建物付近の借家人が家主の賃料値上要求に対抗し、借家人をもつて結成されたものであることを認めることができる。)の組合員一同は現在の家主が一体誰であるか不明であり、家賃の二重払の不安が非常に大であるから、家主が誰であるか明確にして欲しい、それが明確になるまでは家賃の支払を差し控えるが、明確になつた場合にはいつでも昭和二十七年四月分以降の賃料を支払う」旨同組合委員長村山一馬名義で、糟元一合資会社、控訴人住宅会、福寿共益合資会社、言問貸家組合および糟谷磯平を名宛人として通知をした。右申出に対し糟谷磯平は登記簿や家屋台帳をみてくれ、はつきりするからと口頭で村山一馬に答えたのみで、糟谷磯平自身としては明確な返答をしなかつたこと、然し乍ら家屋台帳および登記簿の各謄本によれば、本件建物が登録および登記されたのは、いずれも昭和二十七年六月十七日であるから、右通知がなされた当時にはまだ登録、登記がなされていなかつたのであつて、錦四組合から右のような内容の通知があつた後に本件建物を含む四戸建四棟について控訴人住宅会名義に登録、登記したものであること。

右のような事実が認められる。控訴人住宅会代表者糟谷磯平の本人尋問における供述中、被控訴人清水幸子にははじめから控訴人住宅会が貸すのであると話しておいた旨の供述は措信しないし他にこれに反する証拠はない。

(ロ)  そして、成立に争のない乙第六号証と当審における被控訴人清水幸子の本人尋問の結果とによると、被控訴人清水幸子は同人が借家の申込をした当時敷金を払い込んだ相手である言問貸家組合を、当初から、賃貸人と信じていたことしたがつてまた被控訴人清水隆においても同様に考えていたことを推認することができ、そのような被控訴人らとしては、右認定のような事実が存在した事情のもとにおいては、被控訴人ら(成立に争のない乙第八号証によれば、被控訴人清水幸子は昭和二十二年四月六日頃から、同隆は昭和二十三年四月三日頃から本件建物に居住したことを推認することができる)が、少くとも前記認定のように昭和二十七年四月七日付で糟元一合資会社から被控訴人清水隆に対し明渡請求の通知がなされた頃以降は真の賃貸人が誰であるかを確知することができなかつたことは無理がないということができる。

なお、前記認定のように錦四居住者組合委員長名義で控訴人住宅会に対し家主を明示するよう通知がなされた以後、控訴人住宅会と被控訴人らもしくは錦四居住者組合との間に右明示につきなんらかの結論を得たか被控訴人らにおいて本件建物の賃貸人が誰であるかを確知することができたであらう事実を認めるに足りる十分な証拠がないのみならず、公証部分についてその成立に争がなく、したがつてこれと一体をなすその余の部分も真正に成立したものと認める乙第二号証のこの記載から、本件建物に関して控訴人住宅会は所有権を有しない趣旨の判決が東京地方裁判所においてなされたことがあつたような事実が推認される以上、被控訴人らが控訴人住宅会から昭和三十年十二月二十一日到達の書面で賃料支払の請求を受けた当時においてもなお被控訴人らとしては本件建物の真の賃貸人を確知することができなかつたとしても無理はないといわざるを得ない。右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(ハ)  もつとも、本件建物の所有者および被控訴人らに対する賃貸人は控訴人住宅会であると解すべき旨前記のとおり認定した。しかし、右のような認定に到達するには本件において控訴人住宅会が提出した各証拠資料を総合し、これとこれに相反するような証拠資料とを比較検討して法律的な価値判断を加えたうえでの結論であること前記のとおりであるのみならず、そのようにして到達し得た本件建物の所有者および賃貸人が控訴人住宅会であるということができるということと、賃借人である被控訴人らにおいてそのことを過失なく確認できたかどうかということとは別個の問題である。

(ニ)  甲第七号証(契約証書と題する書面)は谷岡幸子の署名および名下の押印を除くその余の部分の成立は被控訴人らにおいて否認するところであり、右部分が真正に成立したものであることを認めるに足りる証拠はない。却つて、同号証中名宛人である「社団法人都民住宅会理事長」と記載のある部分はゴム印によつて押なつされたものであるところ、同号証の作成日である昭和二十二年五月六日にはまだ控訴人住宅会は設立許可がなされていなかつたことは成立に争のない乙第七号証により明らかであること、被控訴人清水幸子は当審における本人尋問において、同号証に署名、押印をした当時には右ゴム印は押されていなかつたように思う旨述べ、なお、成立に争のない乙第六号証によれば、被控訴人清水幸子が本件建物を借り受けるに当つて支払つた敷金を言問貸家組合が受領していることが認められることなどをも併せ考えれば、甲第七号証を、被控訴人らにおいて本件建物の真の賃貸人が控訴人住宅会であることを知つていたと認定すべき証拠資料とはなし難い。

また、成立に争のない甲第二号証によると、被控訴人清水隆が昭和二十七年四月十二日付で同年三月分の賃料を受取人控訴人住宅会として供託していることが認められるが、右供託をした頃までには賃料の受取人がたびたび変つたこと、被控訴人らが同年四月七日付で糟元一合資会社から明渡を求められたことは右のとおりであり、また、成立に争のない乙第一号証の三によれば、右供託月分の直前である昭和二十六年十二月分から昭和二十七年二月分までの賃料は控訴人住宅会が受領していることを認めることができるから、被控訴人清水隆としては右供託は、控訴人住宅会を真の賃貸人と信じてなしたものではなく、一応、便宜のため控訴人住宅会あてになしたものであると認めるのを相当とすべく、これと別異に解すべき証拠はない。

(ホ)  なお、控訴人住宅会代表者糟谷磯平は当審において、乙第一号証の一ないし三は同人がまた言問貸家組合、糟元一合資会社、福寿共益合資会社などの代表者を兼ねていた関係上、紙が不足の場合どの会社の用紙でも勝手に使つていたのであつて、本件においても糟谷磯平の妻が福寿共益合資会社や言問貸家組合の用紙を使用したのである旨、また、乙第三号証の一は書生が控訴人住宅会の印を押すべきを誤つて糟元一の印を押した旨述べている。たとえ右のような事実が存在したとしても、そのようなことは被控訴人らにおいて本件建物の真の所有者が誰であるか知ることができなかつたのはやむを得ないとの前記認定になんら影響はない。

しかして、他に被控訴人らにおいて本件建物の真の賃貸人が控訴人住宅会であることを確知することができなかつたことにつき過失があると認めるに足りる証拠はない。

(二)  果して然らば、被控訴人らが、右賃貸人を確知することができなかつたことにつき過失がなかつたものというべきであるから、前記認定のように被控訴人らのした供託はいずれも本件建物の賃料弁済のための供託として有効であり、右供託により右賃料債務は消滅したのであるから、右賃料を催告期間内に支払わなかつたことしたがつて、本件建物の賃貸借契約は解除されたことを理由として本件建物の明渡と昭和二十七年四月一日以降明渡ずみに至るまで一箇月金七百円の割合による賃料ならびに賃料相当の損害金の支払を求める控訴人住宅会の請求は全部失当である。

三、よつて、控訴人住宅会の本訴請求を排斥した原判決は相当で本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十五条および第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 近藤完爾 入山実 秋吉稔弘)

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